東京高等裁判所 昭和44年(行ケ)67号 判決 1970年2月27日
原告 見村登
被告 特許庁長官
主文
特許庁が、昭和三九年審判第一、九五〇号事件について、昭和四四年五月二八日にした審決を取り消す。
訴訟費用は、被告の負担とする。
事実
第一双方の申立
原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、被告指定代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求めた。
第二請求の原因
原告訴訟代理人は、請求の原因として、次のように述べた。
一 原告は、昭和三六年三月七日特許庁に対し、「高速角度自由切断機」なる名称の発明について、特許出願(昭和三六年特許願第七、七七六号。以下「本願発明」という。)をしたところ、昭和三九年三月二九日拒絶査定を受けたので、これを不服として同年四月二四日審判の請求(昭和三九年審判第一、九五〇号)をした。これに対し、特許庁は昭和四四年五月二八日「本件審判の請求は成り立たない。」旨の審決をし、その審決謄本は同年六月一一日原告に送達された。
二 本願発明の要旨は、明細書(昭和三九年四月二四日付および昭和四一年九月二四日付の自発手続補正書による補正後の明細書をいう。以下同じ。)の「特許請求の範囲」の項に記載されているとおり、「機枠に沿つて上下に昇降し得るように架装した中心軸の下部に、垂直に立てた回転砥石の直径線が上記中心軸の中心線に一致するように回転砥石を装設して該中心軸の回動に伴い回転砥石をその同一中心線を中心として左右に回動し得るように構成し、以つて被切断物を同一中心線上に於いて二角度以上に切断し得るように構成したことを特徴とする高速角度自由切断機。」にある。
三 審決は、本願発明の要旨を前記特許請求の範囲に記載されたとおりと認定したうえ、拒絶理由で引用された昭和三三年二月二〇日特許庁資料館受入れの「菊川製材木工機械カタログ」カタログC―一三〇、菊川RC型ラジアル式電動自在丸鋸盤(以下「引用例」という。)には、「丸鋸ヘツドは上下に昇降し得るようにされたアームの両側の円形断面を有する摺動面上に装架されており、ヘツドは水平に三六〇度旋回できるので、横切りから縦挽へのヘツドの転換はアームの右側面に設けられた目盛指によりヘツドはアーム上の所定の角度位置にハンドルでもつて固定される。さらに、丸鋸ヘツドは組込型電動機によつて構成され、電動機軸が鋸軸となつて切断刃はヘツドの側部に装着されるような電動自在丸鋸盤」が記載されているところ、本願発明と引用例とを対比すると、両者は上下方向軸線の回動に伴つて回転砥石(後者においては、切断刃)が左右に回動し得るように構成し、被切断体を二角度以上に切断できるようにした点では一致するが、前者が中心軸の下部に垂直に立てた回転砥石の直径線が上記中心軸の中心線に一致するように回転砥石を装設したのに対し、後者の切断刃は回転中心線の側部に設けられている点で相違する。しかし、垂直に立てた回転砥石の直径線を回転中心線上に置くか、中心線より外れた位置に置くかは当業者が必要に応じて選定できる設計上の差異に過ぎないし、また、前者の所定の位置に取り付けた被切断体を移動することなく二角度以上に自由に切断しうるとする効果も上記の構成上の差異により生ずる効果に過ぎず、回転砥石を左右に回動して任意の角度で切断できるという効果において両者は一致している。それゆえ、本願発明は引用例に記載された技術内容に基づいて格別の発明力を要しないで必要に応じて当業者が容易に発明しうるものと認められ、したがつて、本願発明は特許法第二九条第二項の規定により特許を受けることができないものと認める、と判断している。
四 しかしながら、審決には次のような違法があるから、取り消されるべきである。
1 従来の角度切断機の技術的欠陥について
従来の角度切断機における回転砥石は、被切断物に対し斜め上方から下降するような切断方法を採つているため、四五度以上の角度切りに際して回転砥石がパイプの角度に沿つて曲り逃げして破壊し、作業者に不測の傷害を与える等の危険が多く、また、砥石は一定位置において作動するだけであるから、被切断物を二角度以上に切断するような場合には、その都度被切断物を移動して改めて締付けを行なつた後、切断しなければならない不便があり、広い作業場所を必要とするばかりでなく、この移動により切口角度の精度を狂わせ易いという致命的な欠点がある。したがつて、切断角度が四五度以上となればアセチレンガス切断によつていたのであるが、これには長時間を要し、しかもその切口はぎざぎざに乱れて精度に欠け、ことに二角度以上の切断を行なう場合は、二角度間の角度が不正確となり、グラインダー仕上げ等を必要とするだけでなく、パイプ接合のとき相互の密着面に隙間ができるため、そこに肉盛りを行なう等の手間を要し、また、切断の熱作用によつて金属素質が変化し、パイプ接合に当たつてその熔接が完全に行なわれ難い等の諸欠点がみられた。
2 本願発明の課題とその技術的解決手段および作用効果について
本願発明は、前記の諸欠点を除去するため、被切断物を少しも移動することなく、これを同一中心線上において二角度以上に極めて正確かつ容易に切断でき、しかも、切断角度が四五度以上のものでも所定の角度に傾斜した回転砥石を、被切断物の上方より垂直方向に送りをかけることによつて、回転砥石の曲り逃げ等を起こすことなく容易に切断しうる切断機を提供したものである。すなわち、本願発明の高速角度自由切断機は、前記のような特許請求の範囲に記載の構成より成るものであり、回転砥石はその回転面が常に垂直で、かつ、上下可動な中心軸の中心線と常に一致して回動できるので、その垂直中心線上に被切断物(たとえば、パイプ)の中心軸が一致するように被切断物を水平に設置し、中心軸を所望の角度だけ回動すれば、被切断物を所望の角度に切断することができ、また、中心軸の回動によつて回転砥石の回転面の角度を変えた後、砥石を再び下降させれば被切断物の位置を移動することなしに、そのままの位置で、被切断物を二角度以上に切断することができるという特徴がある。
3 引用例の構造と作用効果について
一方、引用例(これが、昭和三三年二月二〇日特許庁資料館に受け入れられたものであることは、認める。)に記載された菊川RC型ラジアル式電動自在丸鋸盤は、上下に調整でき水平に旋回自在な「アーム」と、この「アーム」の両側の円形断面を有する摺動面上に装架され、かつ、水平に三六〇度旋回できる枠体と、この枠体の水平軸に回動可能に支承された「モーター」と、この「モーター」軸に取り付けられた丸鋸(切断刃)とより構成されていて、横切り、縦挽き、傾斜挽きができるように構成されているものであるが、その切断刃(丸鋸)は前記枠体の回動心軸より偏心した位置に装着されているので、枠体の回動によりその回動心軸を中心として弧状に刃先が移動する。また、切断刃(丸鋸)の送りは水平または斜めの方向になされ、上下方向になされるものではない。そして、右の構造上本願発明の目的とするような作用効果は期待しえない。
4 本願発明と引用例の対比
本願発明と引用例とを比較するに、その構成および作用効果において両者の間には次のとおり甚だしい相違がある。すなわち、
本願発明においては回転砥石をその回転面が常に垂直で、かつ、この回転面を上下に昇降できる中心軸の中心線に一致して装設したのに対し、引用例においては切断刃が回動中心線より偏心してその側部に設けられている点で構成上の差異があり、また、両者の右の構成上の相違に基づいて、本願発明の切断機においては、被切断物を全く移動することを必要とせずに一旦設置したそのままの状態で、ただ中心軸の左右回動で所望の角度を定めることと、その中心軸の上下動操作で回転砥石の送り操作を行なうことだけによつて、被切断物を確実に二角度以上に切断することができ、このため簡易迅速かつ円滑に切断作業ができ作業能率が著しく向上しうること、および被切断物の据付け位置の移動に起因する角度出しの不正確性を完全に防止し、精度の高い切断作業が遂行できるという顕著な効果を奏するものであるのに対し、引用例においては、その構造上前記のような作用効果は全く期待することができない。さらに、本願発明にあつては回転砥石の送りは中心軸の上下動によつて被切断物の中心に対し垂直方向に行なわれるので、四五度以上の角度切断に際して刃物の「曲り逃げ」等を起こすことが全くないという効果をも奏するのに対し、引用例のものの回転刃物の送りは水平方向に行なわれるので、四五度以上の角度切断は刃物の「曲り逃げ」のため不可能である。
5 審決の違法点について
以上のように、本願発明は引用例とその構成において相違し、この構成の相違に基づき作用、効果においても著しい差異があり、しかも、本願発明のこの引用例と相違する構成は、本願発明の特許請求の範囲の記載中に明記され、かつ、その構成に基づく作用、効果も明細書の「発明の詳細な説明」の項中に明記されているのであつて、本願発明は引用例に記載された技術内容とは全く相違し、引用例から当業者が容易に発明できる程度のものではない。しかるに、審決は本願発明の必須の構成要素ともいうべき前記の構成要素を全く欠除している引用例と本願発明とを比較したうえで、前記の相違点を当業者の必要に応じて選定できる設計上の差異に過ぎず、また、本願発明の効果も前記構成上の差異より生ずるものに過ぎないものとし、本願発明を引用例の技術内容に基づいて容易に発明できるものと誤つて判断したもので、審理不尽の違法があり、当然に取り消されるべきものである。
第三被告の答弁
被告指定代理人は、答弁として、次のように述べた。
一 請求の原因第一項ないし第三項ならびに第四項の1ないし3の事実(第四項の3の事実中引用例の切断刃(丸鋸)の送りが上下方向になされるものではないとの点および作用効果として本願発明のような四五度以上の角度切断ができないとの点は除く。)は認めるが、その他の原告主張事実は争う。
二 本件審決について、原告の主張するところは理由がなく、本件審決には何らの違法も存しない。すなわち、
1 原告は、引用例の切断刃(丸鋸)の送りは水平または斜めの方向になされ、上下方向になされるものではなく、または、回転刃物の送りは水平方向に行なわれるので、四五度以上の角度切断は刃物の曲り逃げのため不可能であると主張するが、引用例には、「アームの上下調整は上部のクランクハンドルで軽快にコラムを昇降させて行う」と記載されており、この記載よりすれば、丸鋸ヘツドを取り付けたアームが上下動することは、すなわち切断刃が上下動することであり、このことから切断刃を上下動させて、被加工物を切断することは可能である。
2 回転砥石の直径線を回転中心線上に置くか中心線より外れた位置に置くかは当業者が必要に応じて選定できる設計上の差異にすぎない。なるほど、引用例においては、切断刃が回動中心軸より偏心して、その側部に設けられているが、偏心量(回動中心軸より切断刃までの距離をいう。以下同じ。)を大とすればするほど回動中心軸の回動により側部に設けられる切断刃の刃先の描く軌跡は、回動中心より大きく離れることになり、このことは被加工物を二角度以上に切断するときその都度被切断物を移動する移動距離も大となる理屈であるが、一方において、前記の偏心量を小とすればするほど切断刃の刃先の描く軌跡は回動中心より小なる距離となり、したがつて、被加工物の移動距離も小となる。そして、その小となる極限は偏心量が零、すなわち切断刃の中心線が回動中心軸の軸線と一致することであり、このとき被切断物の移動距離が零となるのであつて、この程度の差異は単に設計上の差異といえる。さらに、引用例には、「丸鋸ヘツドは傾斜挽きに備えて垂直方向に任意角度に傾斜でき零度(軸が水平)四五度および九〇度(軸が垂直)の位置に迅速に固定される」と記載され、この記載よりすれば、ヘツドが九〇度となつたときはその軸に取り付けられる刃物の中心線は回動中心と一致することになる。また、カツターを竪軸の周りに角度を調整できるようにすることは、たとえば、歯車の削り仕上げ等において普通に行なわれていることである。引用例のものが刃物を上下動させうるものであることは前記のとおりであるが、刃物を上下動させて被加工物を加工することは工作機械においては普通のことであり、本願発明のように、刃物を上下に昇降させて被加工物を切断することは、機械として格別の特徴とはいえない。
これを要するに、本願発明は、その構成においては引用例における回動中心軸に偏心した切断刃を従来普通に行なわれている当業者の技術常識によつて設計変更して、その切断刃の中心線を回動中心軸の中心に一致させたものに相当し、その効果も構成上の差異に基づく効果に過ぎないものであり、その二角度以上の切断が可能であるという目的においても一致するのであるから、本願発明が引用例のものから容易に発明しうるものとした本件審決は正当である。
第四証拠関係<省略>
理由
一 本願発明についての特許庁における審査、審判手続の経緯および審決の要旨ならびに本願発明の明細書の特許請求の範囲の記載が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。
二 成立に争いのない甲第二号証(本願発明の昭和三九年四月二四日付自発手続補正書)および第三号証(本願発明の昭和四一年九月二四日付自発手続補正書)によると、本願発明の明細書の「発明の詳細な説明」の項には、従来の角度切断機の技術的欠陥、本願発明の課題、その技術的解決手段および作用効果に関し、原告主張の趣旨の記載が存することが認められ、前記当事者間に争いがない特許請求の範囲の記載に前段認定の事実を総合すると、本願発明の要旨は、特許請求の範囲の記載のとおり、「機枠に沿つて上下に昇降し得るように架装した中心軸の下部に、垂直に立てた回転砥石の直径線が上下中心軸の中心線に一致するように回転砥石を装設して該中心軸の回動に伴い回転砥石をその同一中心線を中心として左右に回動し得るように構成し、以つて被切断物を同一中心線上に於いて二角度以上に切断し得るように構成したことを特徴とする高速角度自由切断機。」にあるものと認めることができる。
三 一方、引用例は昭和三三年二月二〇日特許庁資料館受入れにかかるものであつて、それに記載されている菊川RC型ラジアル式電動自在丸鋸盤は、上下に調整でき水平に旋回自在なアームと、このアームの両側の円形断面を有する摺動面上に装架され、かつ、水平に三六〇度旋回できる枠体と、この枠体の水平軸に回動可能に支承されたモーターと、このモーター軸に取り付けられた丸鋸(切断刃)とより構成されており、横切り、縦挽き、傾斜挽きができる構造であること、およびその切断刃(丸鋸)は、前記枠体の回動心軸より偏心した位置に装着されている構造のため、枠体の回動によりその回動心軸を中心として弧状に刃先が移動するものであり、このため本願発明の目的とする被切断物を移動することなく、これを同一中心線上において二角度以上に正確かつ容易に切断するという作用効果を奏しえないことについては当事者間に争いがない。なお、原告は、引用例にあつては、切断刃の送りが水平または斜めの方向になされ、上下方向になされる構造となつていない旨主張するけれども、成立に争いのない甲第四号証の二(引用例のカタログの裏)によると、「ラジアルアームは半円形断面を有する堅牢な片持梁構造にして、丈夫な円筒コラムで支持されている。アームの上下調整は上部のクランクハンドルで軽快にコラムを昇降させて行う。」と記載されていることが認められるところ、前認定のとおり丸鋸ヘツドはアーム両側の円形断面を有する摺動面上に装架されているのであるから、アームの上下動が可能であれば丸鋸ヘツド、したがつて、またヘツドに取り付けられた切断刃(丸鋸)も上下動することが可能と考えられること、成立に争いのない甲第四号証の一(引用例のカタログの表)に、作業用途として耕入れ仕事やルーター仕事の図が示されている点等に徴すると、原告の主張のように引用例において切断刃の送りを上下方向にすることが構造上全く不可能と認めるのは相当でない。
四 そこで、本願発明と引用例との構造および作用効果を対比するに、本願発明においては、回転砥石はその回転面が常に垂直で、かつ、その回転面が上下に昇降できる中心軸の中心線に一致して装設され、該中心軸の回動に伴い回転砥石がその同一中心線を中心として左右に回動しうるように構成されているのに対し、引用例においては、切断刃が回動中心線より偏心してその側部に設けられており、この構造のため切断刃を取り付けた枠体の回動により切断刃は回動心軸を中心として弧状に移動する点で相違する。そして、この相違点こそは、本願発明が従来の角度切断機における技術的欠陥を克服するために採用した構成であることは前記認定したところから明らかであり、この両者の構成上の相違に基づき、本願発明においては、前記認定のように被切断物を移動することなく二角度以上に正確かつ容易に切断しうるという特段の作用効果を奏しえられるのに対し、引用例のものからは、右の作用効果を全く期待しえないこと前説示のとおりである。
五 被告は、本願発明と引用例の前記の構成上の相違点は当業者が技術常識上容易になしうる範囲内のものである旨主張するから、以下この点について検討することとする。
まず、被告は、引用例においては、切断刃が回動中心軸より偏心してその側部に設けられており、この点本願発明と相違するけれども、偏心量を零とした場合には切断刃の中心線は回動中心軸の軸線と一致する理屈であるから、本願発明は引用例から容易に発明しうる旨主張する。しかしながら、本願発明のように偏心量が零の場合とそうでない場合とは、その構造において格段に相違することはもち論のことながら、その作用効果において前説示のとおり全く質的な差異を生ずるのであり、本願発明の顕著な作用効果に照らせば、被告主張のように引用例から本願発明が容易になしうるものと認めることは到底できない。したがつて、この点の被告の主張は理由がない。
次に、被告は、引用例において切断刃(丸鋸)は枠体の回動中心軸より偏心した位置に装着されているため枠体の回動によりその回動中心軸を中心として弧状に刃先が移動するけれども、引用例中に「丸鋸ヘツドは傾斜挽きに備えて垂直方向に任意角度に傾斜でき零度(軸が水平)四五度および九〇度(軸が垂直)の位置に迅速に固定される」との記載があるから、ヘツドが九〇度となつたときはその軸に取り付けられる刃物の中心線は回動中心と一致する旨主張する。しかし、本願発明においては、その特許請求の範囲に明記されているとおり、回転砥石は機枠に沿つて上下に昇降しうるように架装した中心軸の下部に、垂直に立てられ、その直径線が中心軸の中心線に一致するように装設され、中心軸の回動に伴い回転砥石がその同一中心線を中心として左右に回動しうるように構成されており、この構成により前記所望の作用効果を奏しうるところ、引用例において叙上の被告主張の場合(ヘツドが九〇度となつたとき。)には、切断刃(丸鋸)の直径線は中心軸と九〇度(水平)となり(前記甲第四号証の一中ホゾ取り仕事<9>の図参照)、したがつて、上下方向の切断は不可能となるから、本願発明と引用例とは、この点の技術思想を全く異にするものというべく、単に引用例において刃物の中心線と回動中心が一致するからといつて、このゆえに引用例から本願発明を容易になしうるものとはなし難い。したがつて、被告の右主張も採用の限りでない。
また、被告は、カツターをその竪軸の周りに角度を調整できるようにすることは、歯車の削り仕上げ等において普通に行なわれていることであるから、本願発明の回転砥石装着の構造には格別の特徴はない旨主張し、この点に関し乙第一号証(その成立については、争いがない。)を挙示するけれども、右例示の場合カツターは竪軸の周りに角度を調整しうるものと認められるけれども、これを本願発明と対比した場合、本願発明において、回転砥石が中心軸の中心線と一致して回動するようにした構成は、被切断物を、移動することなく、同一中心線上において二角度以上に切断することを目的としたものであるのに対し、右挙示の例において、カツターを竪軸の周りに角度を調整できる構成とした目的は、前記乙第一号証によれば、歯車の仕上方法として、「仕上げるべき歯車の軸と一〇度乃至六〇度をなす方向にカツターを歯車と相対的に横動せしめ」うるようにすることを目的としたことにあるものと認められるから、両者はその技術思想を異にするものであり、たとえ、カツターをその竪軸の周りに角度を調整できることが慣用技術であるとしても、このことから直ちに被告主張のように本願発明が容易になしうるものといい難いし、ことに本願発明が従来の角度切断機の技術的欠陥を克服し、顕著な作用効果を奏しうるものであること前説示のとおりである以上、本願発明の上記構成に格別の特徴がないものと断定することはできない。したがつて、被告のこの主張も採用するに由ない。
その他、本願発明が引用例から容易に発明しうるものであることを認めしめる資料は何ら存しない。
六 上来説示のとおりである以上、本願発明をもつて引用例に記載された技術内容に基づいて格別の発明力を要しないで、容易に発明しうるものとし、特許法第二九条第二項の規定により特許を受けえないものとした本件審決は、結局、理由不備の違法があるものといわなければならないから、その取消しを求める原告の本訴請求は理由があるので、これを正当として認容し、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法第七条および民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 柳川真佐夫 武居二郎 楠賢二)